小売ビジネスは転換期を迎えています。商品の仕入れと販売による「粗利(マージン)」だけで利益を出す従来のモデルは、ECの台頭や仕入れコストの高騰により限界に近づいています。そこで今、世界中の小売業者が取り組んでいるのが、自社の「店舗スペース」や「データ」を活用して広告収入を得る「店舗のマネタイズ(メディア化)」です。
実店舗の最大の強みは「実際に商品を手に取れること」と「毎日一定数のリアルな客流量(トラフィック)があること」です。
例えば、毎日1,000人が訪れるスーパーマーケットは、月間30,000ページビューを持つローカルWebサイトと同等のトラフィックを持っていると考えられます。しかも、そこに来る人々は全員が「買い物の意思を持った消費者(ショッパー)」です。広告主にとって、これほど魅力的なターゲット層は他にありません。
実店舗をメディアとして収益化するには、どのような方法があるのでしょうか?代表的な3つのアプローチを紹介します。
最も導入が進んでいるのが、店内にデジタルサイネージを設置し、メーカーから広告費をもらって商品PR動画を流すモデルです。
エンド棚(通路の端の目立つ棚)に小型のサイネージを設置し、その棚に陳列されている商品のCMを流すことで、売上が数十%アップする事例も珍しくありません。小売業者はメーカーから「広告掲載料」をもらいつつ、商品の売上増加による利益も得られるという「一石二鳥」のモデルです。
店舗の空きスペースを活用し、新商品のサンプリングイベントや体験ブースをメーカーに貸し出すモデルです。実店舗ならではの「五感を通じた体験」を提供できるため、化粧品や食品飲料メーカーから非常に高い需要があります。小売側はスペースの貸出料を収益として得ます。
ポイントカードやアプリを通じて取得したPOSデータや顧客属性データを匿名加工し、マーケティングデータとしてメーカーに提供(または共同分析)するビジネスです。メーカーは新商品の開発や、テレビCMの効果検証にこのデータを利用します。「誰が何を買ったか」という事実は、現代のマーケティングにおいて最も価値のある情報(インサイト)です。
店舗のメディア化を進める上で絶対に忘れてはならないのが、「顧客体験を損なわないこと」です。
店内が広告だらけになり、買い物がしづらくなってしまっては本末転倒です。広告はあくまで「顧客にとって有益な情報(新商品の発見、お得なキャンペーン情報など)」として提供されるべきです。顧客、メーカー、そして小売業者の「三方よし」の関係性を築くことが、持続可能な店舗マネタイズの絶対条件となります。
実店舗はオワコンではありません。むしろ、デジタル技術と融合することで、これまでにない新しい価値と利益を生み出す「最先端のメディア」へと生まれ変わろうとしています。店舗のマネタイズ(メディア化)は、これからの小売業が生き残るための強力な武器となるでしょう。
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